海外勤務者健康管理研修会

報告 第6回海外勤務者健康管理研修会(1)

(2009年2月14日、朝日生命大手町ビル24階)

1998年に香港で初めて発生して以来、鳥インフルエンザH5N1は限定的ではあるが、人−人感染を起こし、およそ60%と驚異的に高い致死率を示してきた。2006年以降、さらに人に感染しやすいウイルスにシフトして、新型インフルエンザのパンデミックに至るのではないかという危惧が世界中で強く叫ばれてきた。特に中国やインドネシアでは鳥インフルエンザ発生状況が明らかにされていない一方で、人−人感染が多発し、現地から「新型インフルエンザ」が発生する可能性が高いとして、在留邦人は相当な不安を抱いていた。このような情勢の中で、中国・インドネシアを含む、東アジア・東南アジアにおける、海外赴任者の「新型インフルエンザ」対策を総括する講演とシンポジウムを企画した。

前半は「中国赴任の新型インフルエンザ対策」と題して、勝田吉彰 近畿医療福祉大学教授の講演(座長 三好裕司 明治安田生命健保組合東京診療所長)であった。また、後半は 「東アジア、東南アジアにおける海外勤務者の健康管理 -特に新型インフルエンザ等感染症への対応」と題するシンポジウム(座長 福本正勝 (財)航空医学研究センター検査・証明部長,および、久保田昌詞 当全国協議会事務局)で、古閑比斗志 (横浜検疫所 医師)、金川修造 (国立国際医療センター渡航者健康管理室長)、彌冨美奈子((株)SUMCO伊万里事業所統括産業医)の3人のシンポジストから、この地域における新型インフルエンザ対策の実情を話して頂いた。

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前半の講演の演者、勝田吉彰近畿福祉大学教授は、第4回海外勤務者健康管理研修会で、「海外赴任におけるメンタルヘルス」と題して講演して頂いた精神医学者あるが、アフリカ・ヨーロッパおよび中国における在外公館での医務官としての経歴が長い方である。特に中国ではSARS禍を自ら体験され、日常生活物資が店頭からあっという間に消え、大変困られた経験をお持ちの方である。このような体験から感染症について大いに関心を持ち,新型インフルエンザに関しても造詣を深められ、自ら「新型インフルエンザ・ウォチング日記」(http://blog.goo.ne.jp/tabibito12)なるブログを立ち上げて日々更新しておられる。

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講演の中で勝田先生は、感染症大流行でどんな事が起るのかの話題の中で、SARS5つのP、即ち、Phobia期(患者数が噂では3〜4桁に比べ公式発表では1〜2桁で人々が疑心暗鬼に陥っている時期)、Panic期(公式発表が一夜にして3桁に跳ね上がり、不安が現実化してパニックに陥る時期)、Paranoia期(事実ではない噂や俗説が一人歩きする時期)、Politics期(先進各国からの援助や専門家の調査研究でなど来訪者が増えた時期)、PTSD期(終息後、患者やその周辺のトラウマや日本への一時帰国者への差別とそれに対する苦痛の時期)を挙げられた。特にParanoia期において、「○○会社の社員罹患」「すれ違っただけで感染」「大使館員に死者、葬式が○月○日」などの事実ではない噂が氾濫したことを踏まえ、事実かどうかこまめに検証し、プライバシーに最大限配慮しつつも結果を公表する事がパニック対応に有効であること、情報提供のあり方として「完成されたもの」よりも「その時点でわかっているもの」を小出しにする方が有効であること、などを主張された。さらに、海外派遣労働者にとって現地での自己判断が(欧州系外国人と比較して)困難で、「権威に寄りかかる」傾向が強いため、日本本社の役割が大きいことを示唆された。また、2009年1月には北京で鳥インフルエンザ死亡事例の発生した際にも、「タミフルがないと死ぬかもしれない」「タミフルは倍量のまないと効かない」「日本人には食料を売ってくれなくなる・・・」などの噂・デマが飛び交い、邦人社会全体が慢性的なストレス負荷状態に陥っており、なんらかのきっかけで火がつく危険性が高いことを強調された。そして、このような北京での事態からの教訓として、派遣元企業は「福利厚生」ではなく「基本的生存権保証」の観点から、「食料備蓄」「タミフル供給」「いざという時の帰国支援・家族支援」が保証しなければならないと説かれた。

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