報告 第6回海外勤務者健康管理研修会(2)続いて、後半のシンポジウムでは、最初に横浜検疫所医師の古閑比斗志先生が最近の東アジア・東南アジアにおける感染症の流行状況を概説され、特にニパウイルスによる急性脳炎(致死率60〜74%)、チクングニヤ熱、デング熱など、高病原性鳥インフルエンザH5N1以外にも警戒すべき感染症があることを強調された。さらに、国家公務員のお立場から、新型インフルエンザに対する国の(当時の)対処方針を詳細にご説明頂いた。 2番手として登場された、国立国際医療センターの金川修造先生は、(頻繁に訪れて現地で共同研究もしておられる)ベトナムにおける感染症対策、特に新型インフルエンザ対応を話された。医療情報が充分に届かない、検査が一部の病院でしか可能でない、医療設備が充分でない、薬剤調達が困難、スタッフが足りない、など保健医療体制が脆弱な国では、疾患予防がより重要になることを強調された。 最後に登場された、(株)SUMCO統括産業医の彌冨美奈子先生は、情報がコントロールされ、現状が不明確なインドネシアに、会社が生産拠点を設けている関係で該地の医療状況を事前に詳しく調べておられ、鳥インフルエンザH5N1に対するインドネシア政府の戦略と、パンデミック時に予想されるインドネシアでの医療上の問題点を説明された。その上で、現地での情報収集法として大使館のメールマガジンなどが確実かつ迅速であること、いつでも退避できる体制を作っておくこと、ローカルルールにも考慮して対策を実行すること、などを述べられた。残念ながら、時間の関係で全体的な討論ができなかったが、参加者には中国や東南アジアの現地における新型インフルエンザ対策の問題点を総括する、よい機会になったと思われた。 後日追記この第6回研修会の約2ヶ月後、4月中旬よりメキシコで豚インフルエンザA(H1N1)による死者が多数発生し、北米中心に拡がって、WHOは4月28日にフェーズ4を宣言した。その後も世界中に拡大の一途をたどり、6月11日にフェーズ6(パンデミック)が宣言された。致死率は0.4%程度(日本国内では0.1%未満)とされ、現時点で強毒性でないことが救いである。国内外でワクチン接種や医療体制整備など様々な問題があるが、幸いにも海外派遣労働者が苦労されているというニュースは聞かない。今回の新型インフルエンザ・パンデミックは、H5N1のようなより毒性の強いインフルエンザや新興感染症に対する社会全体の訓練のよい機会と捉えたい。 |