海外勤務者健康管理研修会

報告 第4回海外勤務者健康管理研修会(2)

後半のシンポジウム、「異なった国での生活とストレスI、II」(植本雅治、瀧尻明子 神戸市看護大学)では、海外勤務者がメンタルヘルス不調に至る出国以前・入国後の要因と対策、実際の治療にまつわる問題提起、(ニカラグアでの自らの体験に基づく)異文化適応過程と適応の条件、などの話題が取り上げられた。

植本雅冶教授のご講演の要旨は次のとおり。

初めに、今回のテーマは「(邦人の)海外勤務者のメンタルヘルス」であるが、海外から日本に来る労働者(日系ラテンアメリカ人、東南アジア)や難民、その家族にも同じような問題があり、国内の医療機関でそのような問題に遭遇しうることに注意を喚起したい。  心の病の原因には環境因子(個人の発達の歴史、即ち小さい時からの積み重ねと現在の状況)と体質(例えば肝性昏睡などの病気・頭部外傷のような外傷)がある。どちらか一方だけで起こるというようなことはない。  出会いうる精神疾患としては、環境の要因が強いものとしてはPTSD、適応障害、うつ状態、心身症やいわゆる神経症がある。適応障害は最も頻度が高い。神経症は小さい頃からの(問題の)積み重ねが多い。

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考慮されるべき要因として、出国以前の要因として、性格、病歴、性差、年齢、学歴、出身地などの個人的背景、意図・動機の強さ、目的地の言語・習慣・状況の情報などの準備状況が挙げられる。よく言われるように、きまじめで几帳面な人ほどうつ状態を起こしやすい。 入国後の要因としては、言語、社会状況、習慣、文化などの適応学習、仕事内容、職場文化などの職場環境、家族、同国人コミュニティー、居住環境などの生活環境がある。

移民研究から文献的にみて、到着直後の高揚と緊張の後、数カ月して現実と向き合う中で喪失感・不適応・将来への不安などから発症しやすくなる。

治療にまつわる問題として、まず、文化によって異なる精神疾患観や精神医療システムの違いなど受診に至るまでの問題がある。次に、文化によって異なる症状への理解や、情緒的な伝達が難しい医療者とのコミュニケーション、さらには医療費の問題、など診察に絡む問題がある。また、帰国をめぐっては、費用や航空会社の対応、挫折感への配慮、帰国後の受け入れ、母国での医療との連続性の課題を挙げられた。

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最後に、外国でのストレスをうまく乗り越えていくために、
1) 先ずはリラックスしてよく眠りつつ、休息と生活リズムの確立すること、
2) 仕事と余暇のめりはりをつけ、気持の切り替えを行うこと
3)母国風の食事や生活習慣などからの文化的な退行
などを挙げられた。

神戸市看護大学精神看護学分野助教の瀧尻明子先生は、過去(1999年4月〜2001年4月)に中米ニカラグア共和国にて青年海外協力隊事業(JICA)に参加された。ご講演の要旨は次のとおり。

ご自身はニカラグア共和国の首都から約50Km北の地方都市にある3年課程看護学校(国内5校のうちの1つ)に派遣され、学生・看護教員への教育・指導にあたられた。 青年海外協力隊事業の活動が、「派遣された国の人々と共に生活し、働き、彼らの言葉を話し、相互理解を図りながら、彼らの自助努力を促進させる形で協力活動を展開していくこと」と述べられた後、ニカラグアの国情の概要を話された。

現地の生活で、ワニの肉や食用のイグアナの肉が売られていて周りをハエがぶんぶん飛んでいる、新鮮な野菜がない、などの食事の苦労や、乾季は埃っぽく、雨季は連日スコールが来て未舗装道路がぬかるんでしまう、などの気候に関する苦労も語られた。そのようなご自身の体験を含め、異文化への適応過程におこる心の軌跡を明らかにされた。

隊員が体験するストレス因子として言葉の問題があるが、ニカラグアは公用語がスペイン語であるが、特有のニカラグアなまりがあり、当初はなかなか理解できなかったが、やがて少しずつ理解できるようになると、ひとが何か自分の悪口を言っているのではないかと思うようになるというような、体験を話された。

このような体験を経て実感した異文化への適応の条件として、まずは、「自立した個人であること」を挙げられ、十分な休息と基本的な安全管理で身体的な健康を維持する力、受け入れてもらうという気持ちではなく、 柔軟性と包容力で精神的な健康を維持する力、そして経済力、の三つが「自立した個人である」ためには必要と話された。

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このような体験を経て実感した異文化への適応の条件として、まずは、「自立した個人であること」を挙げられ、十分な休息と基本的な安全管理で身体的な健康を維持する力、受け入れてもらうという気持ちではなく、 柔軟性と包容力で精神的な健康を維持する力、そして経済力、の三つが「自立した個人である」ためには必要と話された。

次に、「コミュニケーション能力」が適応条件として重要であるが、言語的コミュニケーションはともかく、興味と好奇心をもって相手国の情報を積極的に収集できる能力が大事であること、相手は自分と違って当然という心構えからストレスはあって当然と開き直ることも必要とされた。

最後に、 ありのままの自分はどういうものか、自分が今はどういう状態なのか、 なぜそうなっているのか、という点で「自分を知っていること」も適応の条件として重要である、と述べられた。

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